(缶詰時報 2004年5月号掲載)

の度研究所長に就任いたしました。1977年に当会に勤務、研究所第二研究室に配属後27年間食品微生物に関わって参りました。配属直後の業務は加温販売により変敗した低酸性飲料缶詰由来の好熱性偏性嫌気性有芽胞細菌の同定でした。同じ菌株でも亜硫酸の還元能が陰性だったり陽性だったりと納得のいかない結果で終始したことを覚えています。今でこそ食品微生物の同定に遺伝子レベルによる手法が導入されるようになり、悩む問題が違ってきていますが。同時に変敗缶詰の原因検索の手法を教わりました。低酸性飲料缶詰は結果的には1970年代の後半から右肩上がりの成長を続けているわけですが、加温販売する低酸性飲料缶詰における微生物制御は業界挙げての最重要課題となっていました。今ではコーヒー一つをとってもブラックから微糖や低糖、ミルクの含有量がそれぞれ異なるミルクコーヒーと種々様々な製品が市場されるようになりました。消費者のニーズというよりは嗜好を刺激するような商品群となっているようにも思えます。コーヒー牛乳と呼んでいた時代が懐かしく感じるほどです。

1981年には会員企業22社の参加により要冷蔵食品の開発研究に取り組みました。従来の殺菌技術とチルド流通を組み合わせることによってよりフレッシュ感のある製品が製造できるのではないかという考えでした。市販品を購入しては恒温試験を行い、冷蔵下で発育可能な有芽胞細菌の分離作業の日々を送りました。

結果的には10℃未満の流通販売条件下であれば、100℃、40分程度の加熱条件でより良い製品の製造が可能であることがわかりました。しかし、冷蔵条件の管理がなかなか難しいのが現実のようです。今後、製造時の速やかな冷却と消費者が食するまでの冷蔵条件が十分確保できるような状況が可能になることを期待する次第です。そう思いますと常温で流通する缶詰食品がいかに安全な食品であるかということを再認識します。

近、お詫びと回収記事が日常の中に見られるようになリました。1996年とくに大阪府堺市で発生したO157による集団食中毒事故。1998年には回収した製品を再出荷したために発生したO157による食中毒事件、また、ミネラルウォーターによる異物クレームが多発しました。そして2000年には加工乳による食中毒事故と、消費者の食に対する信頼を裏切るような食中毒事件となってしまいました。不安は解消するどころか不安を助長するような事件や事故が発生しております。食に対する不安を払拭するには安全、安心な食品を提供し続けること以外には手立てがないように思います。

後とも会員企業に常に信頼されるよう努めてまいりますのでよろしくお願いいたします。

 (所長兼食品微生物学研究室長 駒木 勝)


<2004年3月の主な業務>

試験・研究・調査

  1. 果実びん詰製品の食品添加物調査

  2. 加熱処理条件が玄米粥中におけるボツリヌス菌の発育に及ぼす影響 

  3. 容器包材の酸素透過度がボツリヌス菌の発育に及ぼす影響 

  4. 熱伝達シミュレーションへの並列分散処理の応用 

  5. インターネットによる情報管理  

依頼試験

新規受付25件、前月より繰り越し30件、合計55件、うち完了31件、来月へ繰り越し24件

主要項目:異物鑑定、成分分析(揮発性成分、栄養成分、油脂成分、重金属)、原因究明(膨張、起泡、析出物)、貯蔵試験、微生物接種試験、カビ同定、菌数測定、変敗原因究明、容器性能試験、熱伝達測定、FDA工場登録関係、バイオテロ法によるFDA施設登録、通関統計データ処理

その他

  1. チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、会議開催)

  2. 主任技術者講習会(巻締:講習、査定 殺菌:試験採点)

  3. 会議(ビジョン検討会、大日本水産会事業推進操業協議会、GMP-WG会議) 

  4. 講習会(北海道缶詰協会技術講習会講師)

  5. クレームと原因究明に関するワークショップ

  6. 会員サービス他(電話、電子メール回答)


登録:2004/5/17
Copyright (c) 2004, (社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会 Japan Canners Association