食品工学研究室 (第3研究室)

缶詰、びん詰、レトルト食品にとって重要な加熱殺菌、包装技術など食品工学分野を担当する研究室です。

主な研究業績

缶詰の二重巻締の評価およびレトルト食品容器の密封評価、食品の熱伝達測定および殺菌効果に及ぼす諸因子の研究、無菌充填包装技術の研究、食品のレオロジーや粘度等の物性など、様々な研究を行っています。

小型熱交換器による超高温殺菌に関する研究

2001~2005年

小型プレート/チューブ式熱交換器(パワーポイントインターナショナル㈱製)を用い、超高温殺菌における栄養素(チアミン)および耐熱性有芽胞細菌の耐熱性について調べた。また、小型表面かき取り式熱交換器(パワーポイントインターナショナル㈱製)を用い、デンプン糊化液の粘性変化について調べた。

介護食品のかたさに関する研究

2001~2011年

咀嚼や嚥下機能が低下しても容易に摂取できる介護食品ではかたさが評価項目として重要である。加工度が大きな製品ほど個体差が大きかった。このような食品では測定方法を検討する必要があった。

加圧レトルトの温度分布が殺菌値に及ぼす影響

2007~2009年

レトルト食品の加熱殺菌に使用される加圧レトルトのカムアップにおける温度分布について調べた。熱水スプレーでは各トレイに専用のノズルがあるために、トレイ毎の温度分布は小さかった。空気混合蒸気式では、カムアップ中に温度分布が存在が存在し、カムアップタイムが殺菌時間より長い条件では、場所により殺菌値に差を生じた

通電加熱による殺菌に関する研究

1999~2011年

通電加熱は食品の持つ電気抵抗を利用し、直接電流を流して食品そのものを発熱させる加熱方法である。連続式の通電加熱装置が実用化されているが、大型固形入りの食品あるいは流動困難な高粘性食品などの加熱には適用できない欠点がある。そこで通電可能な容器を試作し、食品を充填・密封した後、容器外部から通電する装置を開発した。

レトルト食品の熱伝達に及ぼす加熱媒体の影響

2000~2002年

レトルト食品の加熱殺菌では、加熱媒体として空気混合蒸気、熱水、熱水スプレーが使用され、空気を導入してレトルト圧力を制御している。レトルト食品の熱伝達には加熱媒体、レトルト圧力、加熱温度が影響した。加熱媒体による熱伝達の差は、加熱媒体の伝熱特性かつ加熱媒体によりカムアップでの温度パターンが異なるためと考えられる。また、空気混合蒸気および熱水スプレーでは、加熱温度が高いほど、レトルト圧力の影響が小さくなった。熱水では、加熱温度およびレトルト圧力は熱伝達に影響しなかった。

レトルト食品の熱伝達に及ぼす瓦状積載の影響

1998年

レトルトパウチ食品は通常、パウチが重ならないように積載し加熱殺菌するが、パウチを重ね合わせて積載 (瓦状積載)する場合も起こり得る。本研究ではパウチを離して積載した場合と重ねて積載した場合との殺菌値の違いを検討した。その結果、糊化デンプンなど伝導加熱型の食品では瓦状積載をすると殺菌値が大幅に低下したが、水を試料とした場合では殺菌値の低下は20%程度であった。

缶詰の加熱殺菌効果に及ぼす初温の影響

1995年

缶詰の初温が計画された温度より低くなると、殺菌不足を生じる危険性がある。食品を高い温度で充填しても、殺菌を開始するまでに放冷により内容物の温度は低下すると推定される。そこで、このような放置による初温の低下および部位あるいは容器の位置による不均一性について研究した。ゆで小豆をツナ2号缶に90゚Cで充填密封し、空気中で放冷したときの容器表面(巻締周辺部、蓋中央、底中央)、中心部、内容物の平均温度を測定した結果、放置による温度低下速度は、容器の部位により異なっていた。中心部の低下速度が最も遅く、容器表面では巻締周辺部、蓋中央、底中央の順に速かった。また、内容物の平均温度(FDAの定義する初温)は、底中央の温度に近かった。

研究室配置

食品工学研究室

容器密封評価、レオロジー研究、HPや報告書作成などを行います。

プラント室

缶詰、びん詰、レトルト食品、無菌包装食品などの製造実験を行うために必要な各種機械を装備しています。

主な著作物

連続流動殺菌における工学的課題

戸塚 英夫

日本食品工学会誌 Vol.3,No.2,47-52 (2002)

加熱殺菌の殺菌条件について

戸塚 英夫

食品工業 Vol.44,No.22,35-42 (2001)

密封容器詰食品の電気による加熱殺菌に関する研究報告書

日本缶詰びん詰レトルト食品協会

(2001)

水産食品の事典

竹内 昌昭、藤井 建夫、山澤 正勝 編
(缶・びん詰製品加工機械の部門を担当)

朝倉書店 (2000)

高品質なレトルト食品製造のための殺菌条件設定

戸塚 英夫

ジャパンフードサイエンス Vol.39,No.12,33-37 (2000))

レトルト食品の熱伝達に及ぼす瓦状積載の影響

五味 雄一郎、戸塚 英夫、藤原 忠

缶詰時報 Vol.78,No.7(1999)

Dr.Hayakawaと殺菌工学の歩み

戸塚 英夫

缶詰時報 Vol.78,No.11(1999)

FAQ(よくある質問)

1. レトルト食品の密封性の基準

食品衛生法では製品重量に応じて耐圧縮試験、落下試験の方法が定められております。さらに、規定された方法で測定したシール強度(熱封かん強度)が23N/15mm以上であることが掲げられています。

その他に、「ヒートシール軟包装袋及び半剛性容器の試験方法(JISZ0238)」では、容器内に規定された方法で空気を導入しても0.02MPaまでは破裂しないで耐えるように定められています。

現在はまだ食品衛生法とJISが合致しない場合がありますが、将来的には合致されると考えられます。

2. 熱交換器による連続流動殺菌での殺菌時間

連続流動殺菌での殺菌時間は食品がホールディングチューブをどのくらいの時間で通過するか(滞留するか)計算によって求めます。

食品の平均滞留時間は、ホールディングチューブの内径、長さおよび食品の流量から計算できます。例えば内径36mm、長さ9.5mのホールディングチューブ内を食品が毎分15リットルの流量で流れている場合には、平均滞留時間は、次のように計算されます。

平均滞留時間=(0.036/2)^2×9.5/0.015=0.20 分

しかし、この平均滞留時間は食品すべての部分が同じ速度で流動した場合の滞留時間になります。しかし、ホールディングチューブ内の食品の流動は一様ではなく、チューブ中央で速く流れ、チューブ壁に近づくほど遅く流れます。

そこで、連続流動殺菌における殺菌時間は、最も速く流動する部分の滞留時間と定義されております。その時間は、前述した平均滞留時間から計算されます。

つまり、最も速く流動する部分の流速が平均流速の何倍かという係数Sがわかれば、次式で計算されます。

殺菌時間=平均滞留時間/S

ここで、Sですが、これは食品の流動状態(乱流か層流か)、粘性によって決まります。しかし、Sは単純には求めることができません。

そこで、食品の最大流速は平均流速の2倍を越えることはないという大原則があるのですが、この原則に従って、S=2と仮定して殺菌時間を求めるのが普通です。

そこで先ほどの例ですと、
殺菌時間=平均滞留時間/S=0.20/2=0.10(分)

3. 缶詰の具体的な殺菌温度と殺菌時間

この質問が、「FAQの王様」といってよいほど、よく頂く御質問です。しかし、端的にいいますと、「わかりません」としか回答できないかもしれません。

といいますのは、同じ缶詰でも、使用する殺菌機、容器が異なると、殺菌条件は変わります。また、ほとんどの食品原料は農水産物なので、個体差、時期による変動があります。調理(前処理)の方法でも殺菌条件は変わります。殺菌の目標となる微生物も、いつも同じとは限りません。ですから、過去の殺菌条件、他社の殺菌条件が、自社の現在の殺菌条件に適用できないと考えたほうがいいわけです。

それでも、pH、Aw、熱伝達測定データといった基礎的なデータがあれば、多少なりともアドバイスできますが、これらのデータがなければ、ほとんどお手上げです。

4. イージーオープンエンド(フルオープン)のスコアの強度

公的な基準はありませんが、密封性(流通時に割れない)、開封性(消費者が開けやすい)を考慮して、容器メーカが設定しています。

これまでの経験からいうと、タブを引き上げたときに、スコアが割れ始めた時の力(POP値)は20N以上なければ密封性が万全とはいえませんし、蓋全体が開口するのに要する力(TEAR値)が80N以下でないと開けにくいと考えられます。しかし、系統的な実験をしていないので、この値は例外があるかもしれませんので、目安にしかすぎません。

5. びん詰めのトルク値、真空度の基準

公的な基準はありません。密封性が確保されるように設定してください。詳しくは容器メーカーと相談して決定してください。

6. 表計算ソフトによるF値の計算(一般法)

加熱殺菌関係の本を参考にすれば一般法によるF値の計算手順はわかります。表計算ソフトのマニュアルに従って、その計算手順を表せば、表計算ソフトでF値を計算できるはずです。

回答がこれだけでは怒られますので、ヒントと注意点(TIPS)を少しだけお教えします。

殺菌工程全体のF値を求める時は、次式で計算できます(台形法の変形)。

F値=Σ(致死率)×時間間隔

これは、表計算向きの計算だと思います。計算自体はそんなに難しくないと思います。しかし、致死率を求めるのに数表を使った場合と微妙に計算結果が異なる場合があります。

これは、コンピュータを使った計算で注意しなければならないことです。例えば、基準温度121.1℃、z値10℃での115℃の致死率を数表で読むと0.246になります。しかし、表計算ソフトでは、この致死率を0.245470892として計算することが多いです。この小数点4位以下の部分が数表による計算結果との差の原因となります。

また、表計算ソフトでは、基準温度121.1℃、z値10℃での致死率として低温の度が低い20℃のときの致死率も積算してしまいます。しかし、数表を使うときは100℃以上の温度だけの致死率を積算するのが普通です。これも誤差の原因となります。

実際には大きな差になることはないですが、コンピュータを使った数値計算で注意しなければならないことです。

7. 表計算ソフトによるF値の計算(数式法)

数式法には種類があり、Ball、Hayakawa、Stumboなどがあります。このなかでコンピュータでの計算に最も適しているのは、最も数学的なHayakawaの方法だと考えられます。その方法については、食品工業で解説しました。

しかし、Hayakawaの方法はパラメータが多いという短所があります。そこで、パラメータにはBallのものを使用し、実際の計算はHayakawaの方法に従うのが良いと考えられます。

Ballのパラメータを使用した計算では、

B=tp+0.4×CUT
log g=log(j×(RT-IT))-B/fh
log g ->fh/U
Fi=10^((Tr-RT)/z)
F=fh/((fh/U)×Fi)

このlog g-> fh/Uの部分をBallの計算式ではなくHayakawaの式を使用します。logg≧-1の場合は、補間式あるいは近似式を使用して計算できます。

log g<-1の場合は簡単で、次式で計算できます。

fh/U=1/(logz-logg-0.51)

8. 缶詰製造機械のメーカーについて

缶詰製造機械のメーカーを尋ねられることもよくあります。缶詰製造には夾雑物の除去、調理などの前処理、充填、密封、殺菌、箱詰め、計測などで多くの機械が使用されています。私どもではこれらの機械について、すべて把握しているわけではありません。そこで、どのメーカーの機械が良いのか断定することはできません。

しかし、実際に使用している機械についてはよくわかってますし、一部カタログもありますので、参考意見としてどのような機械があるかお答えできるかもしれません。

参考までに一般社団法人 日本食品機械工業会へは
http://www.fooma.or.jp/

9. レトルトパウチの残存空気の影響(残存空気が40~50ml以上残ってしまう。)

微生物的には、ボツリヌス菌を殺滅するくらいの加熱をすれば、好気性菌が危害を及ぼす可能性はないと思われます。

残存空気を60mlくらいにしたパウチの熱伝達を測定して、十分なF値が得られれば、問題はありません。

化学的には、酸素の影響が考えられますが、35℃で1年間、55℃で2~3ヶ月の貯蔵試験をして、確かめるのが一番確実でしょう。

低粘度液体に大きな固形物が入ったもののレトルトパウチは充填を含め製造が困難ですので、機械メーカーと相談する必要があります。

法律的には、残存空気量が多くても、問題はありません。

10. 数式法でF値を計算するのはどんなとき

熱伝達を測定した条件と異なる条件でのF値を計算するときに数式法を使います。

加熱温度が変化してもj、fhといった熱伝達特性値が変化しない場合には、ある加熱温度で求めたj、fhを使って、他の加熱温度での製品温度を予測計算し、F値を算定できます。

飽和蒸気、熱水で静置殺菌するときは、加熱温度が変わっても熱伝達特性値は一定なので、数式法でF値を計算できます。

しかし、空気混合蒸気や熱水シャワー、熱水スプレ-、回転殺菌では加熱温度が変わると熱伝達特性値が変化するので、数式法の適用は制限されます。このような場合には、F値は、その加熱温度で熱伝達を測定し、一般法で計算したほうがよいと思います。

また、カムアップタイムや殺菌時間が異なる場合のF値を計算するときも、数式法で計算します。

レトルトの昇温が不規則なときは、一般法で計算したほうが正確です。

11. レトルトパウチに使用するフィルムの酸素透過性

フィルムの酸素透過性を測定するにはJISで定められた専用の装置が必要になります。しかし、当研究所にはこの装置がありませんので、測定に困難が伴います。そこで、この装置のある試験機関で測定するのが望ましいと考えられます。

例えば、一般財団法人 化学研究評価機構でも酸素透過性を測定できます。

12. レトルト食品の残存空気

レトルト食品(プラスチック袋詰めの常温保存可能な食品ということにします)では、容器内の空気を真空度という圧力的な概念ではなく、残存空気量という量で評価します。フレキシブルな袋では、基本的には袋の中の圧力は外の圧力と等しくなります。

残存空気があると、食品成分の酸化、褐変等に影響するので、なるべく残存空気はないのが望ましいです。しかし、固形物等の食品が入ると、奥の空気は残ることがあります。食品メーカーでは、残存空気の量を把握する必要はあります。

また、残存空気が多いと加熱殺菌するときのレトルト食品の中心部への熱の伝わりが遅くなるので、残存空気量が予定よりも多くなった場合に殺菌不足になることもあります。

残存空気の目安は、ケースバイケースで判断する必要がありますが、多くても10mlくらいじゃないでしょうか。

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