(缶詰時報 2000年8月号掲載)


門の夏がやってきたようです.食肉製品から検出されたO157が検査ミスであったことが判明した直後,関西で牛乳による食中毒が発生しました.当初は食中毒の原因となるような細菌は検出されず行先の見えない状況でしたが,ブドウ球菌の毒素の遺伝子が検出されるや原因が黄色ブドウ球菌の毒素,エンテロトキシンによるものであることが判明しました.発症者は日を追うごとに増え続け,ついには1万人を越えるほどの大規模な食中毒となってしまいました.


の黄色ブドウ球菌が産生するエンテロトキシンの特徴の1つに耐熱性があります.通常,ボツリヌス菌の毒素は沸騰水程度の加熱処理で無毒化することはできますが,このエンテロトキシンは缶詰食品の殺菌条件では到底無毒化はできません.本会が引用している毒素の無毒化に関する耐熱性のデータでは,粗毒素を無毒化するに必要な加熱条件は110℃,400分または121℃,100分です.

1989年,米国における中国産マッシュルーム缶詰による大規模な食中毒はこのエンテロトキシンによるものでした.缶詰の殺菌条件では無毒化できないことを証明したようなことになりました.黄色ブドウ球菌自体は60〜65℃,10〜30分の加熱処理で死滅するのですが,仮りに当該食品中で黄色ブドウ球菌が増殖し,増殖に伴いエンテロトキシンが産生されれば,その後余程の強い加熱処理を施さない限り産生されたエンテロトキシンを無毒化することはできません.菌は死滅しても毒素は残ることになります.


って,食品製造にはこのような危険が常につきまとうことになります.改めてこの紙面を借りて述べることではありませんが,原料はもとより調合から最終製品に至るまで細菌を付着させない,増やさないなどの管理が必要になるわけです.今回の牛乳による食中毒は,業界のトップメーカーの製品だけに業界はもとより製造工場がHACCPの認証工場であったことから,これらの関係者にとっても大きなショックとなったようです.

害分析が絵に書いた餅にならないことを祈るばかりです.

(次長兼第2研究室長 駒木勝)


<2000年6月の主な業務>

試験・研究・調査

  1. みかん缶詰の恒温放置中における菌数変化 
  2. 密封容器詰食品の誘導電流等による加熱殺菌技術の開発 
  3. インターネットによる情報管理

依頼試験

新規受付27件、前月より繰り越し17件、合計44件、うち完了27件、来月へ繰り越し17件。
主要項目;各種缶詰の貯蔵試験、原因究明(変色、容器腐食、異臭など)、異物鑑定、揮発性成分分析、細菌接種試験、菌株同定、無菌性試験、変敗原因究明、証明書発行、容器性状試験、熱伝達測定、殺菌試験、FDA登録関連業務、通関統計データ処理

その他

  1. チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、事務)
  2. 殺菌主任技術者講習会講師担当 
  3. 巻締主任技術者資格査定会 
  4. 講演会(IFT年次大会、JST東京情報流通研究会、無機成分分析セミナー)
  5. 展示会調査(IFT Food Expo)
  6. 会員サービス(来訪対応、電話回答など)
  7. 外部会議(食品産業センター中小育成情報ネットワーク事業検討委員会、同情報システム委員会)

登録:2000/8/6
Copyright (c) 2000, (社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会 Japan Canners Association